政府が大命題を掲げながらなかなか大きな進展を見せなかった「働き方改革」ですが、新型コロナウイルス拡大によって期せずして「新しい働き方」が急速に浸透してきています。
在宅勤務、リモートワークが進むなかで、一部の企業では、余ったオフィスフロアを縮小する「減床」が行われています。
また、やはり新型コロナウイルスの影響で業績が悪化した企業は、バランスシートの改善を迫られています。
これらの背景が大きく影響して、いま「セールス&リースバック」という手法が増えてきています。
セールス&リースバックとは
セールス&リースバックという手法は最近始まったものではありません、欧米の会計基準が日本で導入され所有不動産の会計評価基準が改正されたころに、所有不動産をバランスシートから除外(売却)する「オフバラ」という手法がもてはやされました。
そのころに「セールス&リースバック」という手法を用いることが多かったのです。
この手法は不動産の価格が比較的高いタイミングで用いられることが多いという特徴があります。
簡単に説明すると・・・
・A社が自社使用している自社ビルをB社に高値で売却する。
・A社はテナントとして引き続きそのビルの一部を使用しB社に賃料を支払う。
・B社は収益用不動産としてビルを保有する。
というものです。
以前のセールス&リースバックでは、自社ビルを売却する企業が現状使用しているオフィス部分をそのまま賃貸して使い続けるという事例が多かったのに対して、最近では「働き方改革」によって、今まで使っていたオフォス面積を縮小して賃借するというケースが増えてきています。
最近のトピック
セールス&リースバックについて最近大きなトピックスがありました。
大手広告代理店「電通」が本社ビル売却の意向を公表したことです。
公表された内容によると・・・
大手広告会社の電通グループが、東京・港にある本社ビルの売却を検討している。
同社は2021年1月20日、包括的な事業オペレーションと資本効率に関する見直しなどの一環によるものだと発表した。
本社ビルの売却で、建物の長期修繕やテナント管理などのコスト縮減を図り、業務のデジタル化やワークスタイルの変化にも対応しやすくすることが狙いだ。
電通本社ビルは02年に華々しく完成した超高層ビルだ。大林組が設計を手掛け、フランスの建築家ジャン・ヌーベル氏がデザインパートナーとして参画した。地下5階・地上48階建てで、高さは210m。
上空から見下ろすと、南側と東側に曲面を描くブーメランのような形をしている。低層部と高層部の一部に商業施設や劇場、ホールがある。
電通が、その本社ビル売却を検討するうえで前提としているのが「セール・アンド・リースバック」の活用。
企業が所有、使用している建物を売却した後、買い主から期間を定めて借り戻す(リースバック)というスキームだ。
売却した企業にとっては、建物の使用を続けたまま資金の調達や活用ができるというメリットがある。
電通グループのコーポレートコミュニケーションオフィスでエグゼクティブ・ディレクターを務める河南周作氏によると、本社ビルの簿価は1840億円。
売却額は3000億円規模とされる。
電通は検討のために複数の企業からアドバイスや提案を受けており、その過程で、優先交渉先企業として不動産大手のヒューリックの名が報道された。
河南エグゼクティブ・ディレクターは、「現時点で電通として決定した事項は何もない。今後の事業環境を見据え、オフィスの在り方や働き方の見直しと並行して検討を進めていく」としている。
~以後略~
引用元:日経XTECH「電通本社ビル売却の真意、高価値オフィスビルに海外から熱視線」より
この例は、電通という大きな銘柄とビルの立地、規模、価格が飛びぬけているのでとてもショッキングなものでした。
電通が自社所有ビルを売却する理由のなかに
「働き方改革でリモートワークがが増えオフィスが余っている」
「新型コロナウイルス拡大によって業績が悪化した」
という事象が含まれているのは紛れもないことだと思われます。
この事案は非常に規模が大きく目立つものですが、これほど大規模な案件で無くても「セールス&リースバック」の手法を用いて、自社ビルをオフバランスして資金を作り出すという事例が多くあります。
セールス&リースバックには注意点も
セールス&リースバックを用いれば、今の事務所を使用して事業を継続しながら、自社ビルを売却し比較的大きな資金を作り出すことができます。
しかし、セールス&リースバックにはトラブルになりかねない注意すべき事項がいくつかあります。
・売却時に建物の改修費用負担の区分や設備の帰属区分が曖昧で後に問題になる。
・前所有者の専用使用部分と共用部分の区分が曖昧で後にトラブルになる。
・賃貸借期間中に全所有者が賃貸借契約を解除し退去してしまう。
セールス&リースバックには、これらの問題が潜んでいるので、取引の際にはこれらの問題が発生しないように、売り手、買い手双方の意思確認をしっかりとやって、それを契約書に盛り込むことが重要になります。
海外の投資家も、セールス&リースバックの手法で日本のビルを購入すべく虎視眈々と狙っているのですが、彼らが望む「テナントが抜けた際の売主補填(レントギャランティ)」が日本ではあまり馴染まないため、条件が折り合わないケースがあります。
今後は海外からの不動産投資マネーが増えていくと考えられるため、日本でもレントギャランンティという条件が段々と浸透していくと考えられます。
セールス&リースバックは日本のオフィスマーケットのなかで益々ポピュラーな手法になっていく可能性があり、この手法を実践する企業が増えれば、オフォスビルの売り物が増えて日本のオフィスビルマーケットにも少なからず影響があると考えられます。
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